DCリールについて9つの仮説と今後の進化
みなさんはDCリールをご存じでしょうか。
DCはデジタルコントロールの頭文字をとったもので、DCリールはスプールの回転を電子制御をしてくれるベイトリールです。
これによりバックラッシュの発生を軽減することができる…のだそうです。
初めにお断りしておきますが、私はDCリールを使ったことがありません。
それどころか触ったことも、ちゃんと見たこともありません。
しかし今、DCリールが気になっています。
はっきりとしたきっかけは覚えていませんが、DCリールの存在は知っていたので、「DCリールはどういうときにどのようにブレーキがかかるのか」について疑問に思ったことが始まりです。
ブレーキの詳細について調べようとシマノのHPを見てみましたが、特に記載はありません。
ということで、今回の記事は、
『DCリールを触ったことがない人が、ブレーキの仕組みについて考えてみた』
という内容になります。
答えを知っている人は、何も知らない素人はDCブレーキについてどのように考えたのか、読み物としてお楽しみください。
DCリールはスプールの回転を測定している
DCリールはスプールの回転を電子制御している ということのようですが、制御するには何かを測定し、それを基に判断を行っているはずです。
では、いったい何を測定しているのでしょうか。
そもそも、電子制御する目的の一つとして、バックラッシュをしないためということが挙げられます。
バックラッシュの原理を単純化して考えると、ラインの放出速度をスプールの回転速度が上回ったときに発生します。
ラインの放出速度<スプールの回転速度 のとき、バックラッシュする
ラインの放出速度≧スプールの回転速度 のとき、バックラッシュしない
つまり、ラインの放出速度とスプールの回転速度を測定し、常に ≧ となる関係を保つことが出来れば問題解決です。
では、ラインの放出速度とスプールの回転速度、それぞれ測定することについて考えてみます。
ラインの放出速度を測定するには、ラインが一定時間あたりにどれだけ移動したかを測定しなければなりません。
しかし、ラインはとても細く、色も様々で、ある種のPEラインのようにマーキングが必ずあるわけでもありません。
したがって、ラインの放出速度を測定するということは難しいのではないかと思います。
次に、スプールの回転速度は測定できるでしょうか。
スプールはスプールシャフトを軸に回転するので、スプールのどこかに印をつけ、その印がある時間に何回通過したかを測ることが出来れば、スプールの回転速度を測定できそうです。
回転速度はかなり速いですが、調べてみるとある釣り具販売店の商品紹介ページや動画で、1/1000秒で測定しているという説明があったので、現実性がありそうです。
ちなみに、以下の画像はシマノHPからの引用ですが、従来よりも一定時間に測定できる回数が増えたことを示していると読み取ることができます。
たとえば、従来1/1000秒に1回測定していたが、1/2000秒に1回の頻度で測定するようになったと考えることが出来るので、スプールの回転速度を測定している可能性と矛盾はありません。
仮説1:DCリールはスプールの回転を測定している
スプールの回転速度と回転速度の変化率
スプールの回転を測定しているという説が正しいとすると、次は具体的に回転のどういったことを測定しているのかということが疑問に浮かびます。
前述のとおり「回転速度」では? と思うかもしれませんが、「回転速度の変化率」も重要ではないでしょうか。
どういうことか説明します。
技術の進歩により、スプールの回転時の摩擦抵抗は非常に小さくなってきています。
しかし、摩擦はゼロにはならないですから、キャストすると次第にスプールは回転速度を落とし、やがて止まります。
一方で、ラインはキャスト直後はルアーに引っ張られて勢いよく放出されますが、ルアーやラインが受ける空気や風の抵抗、ライン自体の重量などの影響を受け、ラインの放出速度は概ねキャスト直後から徐々に遅くなります。
つまり、スプールの回転速度の変化率よりも、ラインの放出速度の変化率の方が大きい(速度が遅くなるまでの時間がより短い)と考えられます。
速度の大小関係と同じで、ラインの放出速度の変化率≦スプールの回転速度の変化率 (ここでの変化率は、減少変化率とする)としなければ、バックラッシュの可能性が高くなりますので、前項の話と合わせると、
ラインの放出速度≧スプールの回転速度
かつ、
ラインの放出速度の変化率≦スプールの回転速度の変化率
を満たすときはバックラッシュしにくいということになります。
ここで、もし回転速度の変化率を測定せず、回転速度のみを測定しているのであれば、超遠投できる人がキャストしてスプールを高速回転させたとすると、バックラッシュの可能性がなくてもブレーキをかけることになりますので、DCリールを使うとかえって飛距離が落ちてしまうということなります。
これではDCリールが売れませんので、回転速度のみを測定している可能性は低いと考えられます。
しかしこれには例外があり、ある一定速度を下回っているときはブレーキをかけない、または、超高速回転時は異常時ととらえてブレーキをかけるという可能性は残ります。
前者の具体的な例では、近距離のピッチングやフリッピングをするときに、低速の場合はブレーキをかけて欲しくないといったニーズがあるためです。
低速でブレーキがかかる機種とかからない機種があるとすれば、回転速度の下限値の設定を行っている可能性があります。
仮説2:スプールの回転速度を測定している
仮説3:スプールの回転速度の変化率を測定している
仮説4:ラインの放出速度≧スプールの回転速度 かつ ラインの放出速度の変化率≦スプールの回転速度の変化率 となるようにブレーキを調整している
グラフから読み取れること
次に、シマノのHPに掲載されているグラフからわかることを考えてみます。
横軸が時間ですので、キャストしてすぐはDCブレーキ(赤線)は発動していません。
これに対し、従来のブレーキシステム(黒い点線)、スプールの回転速度に応じてブレーキがかかる仕組みです。
従来のブレーキシステムでブレーキ力が最も強くなるタイミングは、スプールの回転速度が最も速くなる時です。
このタイミングでDCブレーキが発動するということですが、これはスプールの回転速度の変化率が0になったときと考えることができます。
つまり、前述のスプールの回転速度の変化率を測定しているという説はこのグラフからは否定されません。
また、DCブレーキはグラフの頂点に達するまでブレーキがかかっていないということですので、キャスト直後のライン放出速度≧スプールの回転速度 のときは全くブレーキをかけないということになります。
これにより、回転速度が最も速くなるときまでは、DCブレーキでの飛距離が従来のブレーキシステムよりも伸びるだろうということが言えると思います。
仮説5:DCブレーキは、キャスト後スプールの回転速度の変化率が0になるまでブレーキがかからない
(どこで見たか覚えていませんが、低価格帯のブレーキのグラフでは、キャスト直後からブレーキが発動していると読み取れるものもあったので、仮説5はブレーキの種類によるようです。)
次に、グラフの頂点を過ぎた後を見てみましょう。
DCブレーキのグラフはなだらかになっていないため、ブレーキがかかったり、緩められたりということを表しています。
このグラフは2回ブレーキがかかって1回緩むということを示しているのではなく、状況によってブレーキがかかりますよ、DCブレーキはかかるだけでなく緩む場合もありますよ ということを示しているものと思われます。
これは、具体的にどういうことなのでしょうか。
DCブレーキがかかったり、緩んだりするのはどういうときか
ようやく本題に辿り着きました。ここが私が最も知りたいところです。
仮説6:スプール回転数のモデルデータがある
スプールの回転速度や変化率のモデルデータがあり、そこから逸脱した場合にブレーキが発動するという仮説です。
例えば、シマノのスタッフが遠投したときのデータを集めます。
どういうときにバックラッシュするかや、遠投できたときのスプールの回転速度やその変化率はどのようなものだったかといったデータを収集します。
そしてそこから理想のスプールの回転速度や回転速度の変化率のモデルデータを生成します。
たとえば、実際のキャスト時にこのモデルデータと比較してスプールの回転速度の変化率が大きくなった場合はDCにブレーキをかけさせ、逆にモデルデータよりも回転速度の減少率が小さい場合はブレーキを緩めさせるといったことが考えられます。
このような制御を行うことにより、モデルデータ(理想のキャスト)のスプール回転に近づけることができるというわけです。
そしてシマノのHPの記載より、以下の仮説を導きました。
仮説7:モデルデータは遠投のデータである
モデルデータが足枷になる
ここまで仮説に仮説を重ね、もはや妄想の領域になっていますが、さらに続けていきます。
ここまでの仮説が正しいとすると、ある弱点が浮かび上がります。
それは、モデルデータが理想値にならない場合があるということです。
たとえば、前項でモデルデータは「遠投時」のものを想定していました。
遠投するときは最適なブレーキをかけてくれるのですが、中距離はどうでしょうか。
ブレーキの効きが弱すぎて、スプール回転が速いままサミングをしなければいけなくなるかもしれません。
つまり、メーカーが想定している使い方と異なる使い方をすると、DCの効果を最大限発揮できないのです。
シマノHPを見てみると、リールのブレーキ設定は、 4×8 といったように、ラインの種類やルアーのウエイト・空気抵抗等によって複数段階設定することができます。
これは、モデルデータが複数あることを意味しています。
例えば、PEラインとフロロカーボラインの重量を比較すると、フロロカーボンの方が重いので、スプールの回転速度やその変化率はラインによってモデルデータが異なっているはずです。
モデルデータに近づけたときにDCは真価を発揮するとすれば、適切な設定を選ばないとDC本来の性能を引き出すことは出来ません。
しかし、タックルや釣り人の体格、投げ方の癖はどうでしょうか。
ロッドの長短、張りの強さ、弾道の高低、オーバーヘッドではなくサイド気味に投げる人など様々です。
さらに、初心者がモデルデータに近いキャストが出来るかというのも疑問です。
そもそも遠投するだけのパワーでロッドを振れるのでしょうか。
加えて、ラインをスプールのどのくらい巻いているかや、ラインの種類(メーカー)、スプール径や幅によってもスプールの回転速度や変化率は変わるはずです。
このようなことを考えると、使用者がモデル(データ)に近い状況でないとDCリールの性能を最大限活かすことはできないのです。
仮説8:DCリールは、使用者がモデル(データ)に近づけば近づくほど、活かすことができる
低価格帯は性能が落ちるのか
DCリールを触ったこともない人間ですから、この項も全くの妄想になります。
低価格帯のDCリールはブレーキ設定の選択肢が少ないですが、低価格帯は初心者が購入する確率が上がることから、トラブル回避のため、高価格帯よりブレーキがかかる範囲を広くしている可能性があります。
仮説9:設定の選択肢の少ないモデルは、ブレーキがかかりやすい
ブレーキがかかる状況が多いとすれば、その分飛距離は落ちやすいということになります。
下の図はシマノHPからの引用です。
これを見ると、大味だったブレーキの掛け方が、時代が進むにつれてより精緻化してしていることが読み取れます。
横軸も縦軸も単位がないのですが、言いたいことはわかります。
解像度が上がっているということだと思いますので、設定を間違えると本来の力を発揮できない可能性も生みます。
この逆を考えると、ブレーキ設定の選択肢が少ないリールでは、あえて解像度を落として安全域を広くとるような効きやすいブレーキ設定にすることができるということです。
DCリールは今後どう進化していくのか
ここは仮説ではなく妄想ですが、より多くのデータを集めて、中距離、近距離モードなど、よりモードを増やしていく方向性と、個人がカスタマイズできるような方向性が考えられます。
後者については、シマノの公開されている技術情報によれば、スマホのアプリなどで個人に合わせてブレーキをシビアに設定したりできるようにするといった構想があるようです。
これが実現すれば、個人のタックルや癖に合わせて、より自分にマッチした設定が細かくできることになります。
→追記:ダイワからIMZというリールが発売されました。
最後に
ここまでの仮説を再掲します。
仮説1:DCリールはスプールの回転を測定している
仮説2:スプールの回転速度を測定している
仮説3:スプールの回転速度の変化率を測定している
仮説4:ラインの放出速度≧スプールの回転速度 かつ ラインの放出速度の変化率≦スプールの回転速度の変化率 となるようにブレーキを調整している
仮説5:DCブレーキは、キャスト後スプールの回転速度の変化率が0になるまでブレーキがかからない
仮説6:スプール回転数のモデルデータがある
仮説7:モデルデータは遠投のデータである
仮説8:DCリールは、使用者がモデル(データ)に近づけば近づくほど、活かすことができる
仮説9:設定の選択肢の少ないモデルは、ブレーキがかかりやすい
今回の記事は仮説と妄想で記載していますので、誤りも含まれているでしょう。
少しは当たっているところもあるのではないかと思う部分もあって、たとえば、DCリールの説明文を読むと、楽に飛ぶとか、ロングキャストがどうとか、モデルデータが遠投のデータであるということを示していること(仮説7)を裏付けているように思います。
ただ、やはり仮説の域は出ていないのであり、ロングキャスト以外のモデルデータは入っていないのか、また、低回転でもブレーキがかかるのかなど、検証してみないとわからないことが多くあります。
筆者の100均ジグの釣りではメカニカルブレーキを締めたり、遠投はしないなど、仮説で立てたモデルからは逸脱した使い方となるため、DCの良さは活かせません。
そのため、これまで購入していませんでしたが、検証のために使ってみたいと気になっているところです。
欲を言えばブレーキユニットを比較したいので、高いものと安いものを両方買いたいのですが、単なる知的好奇心を満たすための出費なので考えものです…。
既にDCリールを持っている人は、是非いろいろ試して研究してみてください。
ディスカッション
DCブレーキについて調べている中で閲覧させていただきました。
非常に理論的に組み立てており関心しました。
むずすぎて、6割くらいしか理解できませんでした(笑)
当方では300台以上の中古DC機を扱ってきました。
その中で非常にDCユニットの故障が少ないです。
それなのに上記のようなユニットが載せられるのか不思議です。
ラインごとのモデルデータなどは非常に興味深いです。
適正なブレーキプログラムを、実際どのようにブレーキをかけていると考えますか?
DC機の中はブラックボックスになっています。
実際はダイワのようなマグネットブレーキが搭載させているのではいかと思ってます。
以上当方の妄想でした。
ぞう 様
コメントありがとうございます。
ぞう様は、非常に多くのDCリールを扱われたご経験があるのですね。
私はそのような経験がなく、ネット等で得た情報から予想したに過ぎませんので、
記事の内容を理解できないのは、内容に誤りがあるか説明不足のせいです。
実際どのようにブレーキをかけているかというご質問ですが、「DCモータ」の原理が近いように考えています。